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お父さんのトイレ

「お父さんの作った小屋の写真、見た?」

朝食を食べているとクサコが訊ねた。

「まだ見てない。妹のメールにあったの?」と答える。


クサコの実家は フルンベールの草原の小さな村にある。

レンガ造りの平屋で、そう広くもない菜園が家を囲んでいる。

その菜園に、最近、義父が小屋を建てたという。

中に簡単なかまどを作って、家族で食事ができる小屋。

薬屋で働いているクサコの妹のJMが、先日メールで教えてくれた。

昨日は写真も送ってくれたらしい。


「お父さん、身体悪いのに、何でも出来るねえ・・・
 
トイレだって、作ろうと思えば出来るんだ。
 
作らないのは必要ないからなんだ。
 
 本当に、人のために心配しても、やくにたたないねえ・・」

クサコにしては珍しく、ちょっとしみじみした口調だった。

クサコは、実家のトイレのことをもう何年も心配している。

というのも、クサコの実家のトイレは、

昔の日本の農家のように、

家の中ではなく、菜園の隅にある。

しかも、地面に掘った穴の周りを大雑把に板で囲っただけの、

至極簡単なものだ。

無論、電気なんかないし、風も雨も防げない。

夏はまだいい。

冬になると、クサコの故郷の気温は、零下40度近くなる。

義父は、以前、脳梗塞をわずらい、

リハビリをがんばって随分快復したけれども、

まだまだ身体の動きは不自由で、手足に力が入らない。

そんな身体の人にとって、このトイレがいい訳がない。

家には祖母もいる。

何とかして、実家のトイレをちゃんとしたものにしてあげたいというのが、

ここ数年来のクサコの願いだった。

それが、お父さんの作った小屋の写真を見て、ちょっと気持ちが変化したようだった。


菜園は、夏になるとさまざまな野菜が実る。

畑は、全部、お父さんが片腕で耕し、種をまき、収穫するのだ。

その野菜を料理するための、かまどの燃料は、

お父さんが、毎日、草原に行って、拾ってくる牛の糞だ。

お父さんは、身体がうまく動かないけれど、それでも何でも出来る。

やろうと決めたことは、必ずやる。たとえ、どんなに時間がかかっても・・

トイレを、作らないのは、作れないからではない。

今のままでいいと思っているからだ。

満足しているからだ。

だとしたら、周りの人心配したって仕方がない。

お父さんは、自分の生きたいように生きているのだ。

とやかく言うことはない。

そういえば、お母さんや、家族や、周りの人も、みんな、

お金があったら、アパート・マンションのような集合住宅に住みたいというけれど、

不便でも、お父さんは、絶対にこのレンガの平屋がいい、と言っている。

きっと、このトイレも好きなんだろう。

そういえば、このトイレだって、お父さんが作ったんだから・・・


クサコは、こんなふうに思ったのだろう。


「本当に、人のために心配しても、やくにたたないねえ・・」

全く、そのとおりだと思う。

思い当たることも多い。

私は、ずっと結婚しなかったから、母は随分心配して、

あれこれ言って、見合い話も持ってきた。

しかし、私としては、全然結婚する気などない。

ありがたいけれど・・・ちょっと迷惑・・・といった感じだった。

それが、思いがけなくも、モンゴル娘と結婚してしまった。

本当に、人のために心配しても、やくにたたない。

心配しなくても、なるようになる、とも言えるか。



「本当に、人のために心配しても、やくにたたないねえ・・

 お父さんのこと心配してもそうだものね。

 ましてや、友達のこと、心配したって・・・」

クサコは言って、食べ終わった食器の片付けを始めた。
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